京大工学部から薬学部への転学部に失敗したので中退して他大の医学部医学科に進学した話[医学部再受験]

 

0. はじめに

 はじめまして、mai参ben(@mainichci30study)です。これは医学部再受験体験記のつもりで書いていますが、再現性などは全く保証できないので医学部再受験を考えてる方の参考になるかはわかりません。内容は私の経歴やなぜ医学部再受験をしたかなどが中心で、勉強法・教材といったものは割愛しています(気が向いたら今後書くかも)
 なお、この記事は独断と偏見に基づいたものであり、記事内の情報も完全に正しいかどうか保証はできないので、気になる情報があった場合は自分で調べてご確認ください。

 もしかしたら続編を記事として書くかもしれません。 

 

簡単なプロフィール
男性、都内有名私立進学校京都大学工学部電気電子工学科(中退)→日本医科大医学部医学科、趣味は料理、魚が捌けます。


1. なぜ医学部再受験をしたか

 

 私がどうして医学部医学科に所属するに至ったかを説明すると少々長くなります。

 

 高校卒業当初、私は京都大学工学部に第一志望で入学しました。私は航空機がとても好きで、高校の時は航空宇宙産業の技術者(アビオニクス関連)になるつもりでいました。
 つまり医学部進学などほとんど考えていませんでした。今振り返ると、「ヒコーキカッコえー、ぼくもあれを作りたいナー」みたいなアホみたいに単純で思慮にかけた決断だったと思いますが、高校生のガキンチョなんてそんなものでしょう。3年無駄にした感ありますが、京大では多種多様な経験をさせてもらえて一生の友人もたくさんでき、とても充実していたので没問題ということにしておきましょう。

 とはいえ私の大学生活は必ずしも平穏で牧歌的なものではありませんでした。入学して最初の専門講義、電気回路基礎論1講目の時点で不穏な香りが漂っていたのです。


「あれっ、全然おもろくない...。テブナン・ノートンの定理?なにそれおいしいの?」


 この時点で入学した学科を間違えたことに気がつきました。


「いやいや、今はおもろくないだけでそのうちおもろくなるでしょw」


 そう思いつつ早1年半、電気電子の楽しさなど1ミリもわからず、当然単位も落としまくりの大学生活を送っていました。もちろん鬱状態自律神経失調症・精神科通いです。あまりに精神的に参ってしまったので(電電の建物に近づくと動悸・胃痛がするレベル)、必修の実験を履修取消しして留年を自ら確定させました。今振り返るとかなり大胆(?)なことをしたなあと思います(ちなみに電電は3→4回生のタイミングでしか制度上留年しないので、私は一度も留年せずに中退したことになります)。

 その一方、生命科学分野の面白さには京大時代で気がつけました。きっかけは神経科学分野のラボでやった実験補助のアルバイト。マウスのお世話やら遺伝子型判定の実験やらを経験しました。そんな中、自分で色々なことを調べていくうちに電気電子よりも生命科学の方が自分に向いているのではと思うようになったのです。この直観は正しかったと今でも思います。

 そして2回生の秋、頭をよぎったのは転学部。生命科学系の学科(理学部生物科学科・薬学部薬科学科など)に転学さえできれば、俺の人生は全て上手くいくんダあああああと思い、転学部資格照会(入試の点数などを考慮し転学部に必要な資格があるかをまず確認する手順)を提出。結果、薬学部への転学部資格があることが判明。迷わず出願しました。
 あとは面接を受けるだけ。私はすっかり薬学部生になったつもりで鼻歌交じりに帰宅。この後、恐怖の面接が待ち構えているとはまだ知らずに…。

 数日後、転学部面接経験者(結局転学部は失敗した)からある一言が。

 

「学部の成績悪いと、そのことをめっちゃ掘られるよ」


 え、そんなこと聞いてないんですけど~(冷汗)。そもそも前の学部が合わないから移りたいんだけどな~。そう思いながら、面接当日を迎えたのでした。

 案の定、当日は6人の教授から成績の悪さなどを詰められ、

 

「京大のレベルについていけないのならもっと簡単な大学に入りなおしたらどうですか(原文ママ)」


「書類の字が汚いけどやる気ある?」


のようなことを1時間ほど言われ続け、精神がズタボロになった状態で面接は終了。あまりに悔しすぎて建物の外で2時間ぐらい泣きました。今までの人生で最も屈辱的な瞬間だったと思います。

 それから今後のことを悩むこと2か月。もうそれだったら医学部に入りなおしてで全部やりなおした方がいいじゃんかということになり、医学部再受験を検討し始めました。

 その主な理由を改めて列挙すると以下の3点に集約されます。

 

生命科学・医学分野の研究者になりたい!
 今のところ私は以下の研究に関心があります(各研究の詳細は省きますが、そのうち別の記事で書くかもしれません)。
ⅰ 精神疾患の生物学的診断(RDoC)
ⅱ 寄生虫による宿主操作
ⅲ 風土病(特に紀伊ALS/PDC)

 自分で調べたり人に話を聞いたりした結果(高校の時より下調べの精度や手法は遥かに洗練されていたと思います)、このような研究をするなら医学科が最適であると結論づけられました。やっぱり薬学部への転学部は失敗して正解だったね。面接官さん、私を落としてくれてありがとう。

 

②圧倒的安定性・資格職の強さ
 「医師は稼げない」「医師は過酷」とこの頃言われがちですが、それでも他の職業(サラリーマン・研究者など)と比べると給与や安定性といった待遇が段違いであるのは間違いないでしょう。

 医師は資格職であるため転職・再就職の難易度が低いことが魅力として大きいと思います(結婚などのライフプランとの都合がよい)。研究と臨床を行き来するハードルが低いのも魅力です。これは保険がかけやすいということです。
 保険というと、教職という選択肢もありますね。実際、研究者志望の理学部・文学部学生が保険として教職を取る場合は多いです。しかし、中高教員から研究に戻ることは困難であるというのが現状です(教員はフレキシブルな働き方も難しい)。
 以上のことから、研究者(特に生命科学分野)にとって医師免許は生活の保険という観点で優秀な資格と言えます。私は今のところ研究者志望ですが、研究が無理そうなら臨床にシフトするつもりです。

 また、医学部を卒業したとしても必ずしも医師になる必要はありません。企業研究者や一般企業総合職などの道も開かれています。
 このようにキャリアの自由性が高いことは医師免許持ちの大きなメリットと言えそうです。

 

③ 電電が全然肌に合わない!
 先述の通り、電電も入るときは興味がありましたが、結局ほとんど関心が持てなかったことは中退した理由の多くを占めています(もちろん医学への関心はそれ以上に大きいですが)。
 もし仮に電電を卒業できたとしても自分が電電の専門を生かした職種で働いているビジョンが全く見えなかったことは私に中退を決意させる理由として十分でした。

 

2. お金の話

 

 「医学部に進学したい!」と思ってもネックになるのはお金の話です。これは真っ先に検討するべき事項ですね。私の場合、学費・生活費に関して親からの支援が見込めた上、私立の中でも学費が安い大学(私立医御三家)も可だったのでかなり恵まれていたと思います。そのため経済的に厳しい人に対するアドバイスはほとんどできません。ごめんなさい。

 まず受験にかかる費用ですが、医学部専門予備校等に通うなどではない限り、他学部の受験と事情はほとんど変わらないでしょう(大手予備校上位クラスだと60万円程度)。ただ私立医学部は受験料が6万円もかかってしまうのでそこに注意して下さい(面接で高時給の医学部教授を大人数拘束するからという理由らしい、ほんとかいな)。また予備校の特待生も年齢的に厳しかったりするのでそこも要確認です。

 入学後の費用に関して、私は実家が東京なので下宿代等も考慮した場合、費用の比は、都内私立医(私立医御三家):国公立医=3:1であり、差額は約1400万円です。この差額自体は医師バイトなどをすればペイできる額なので初期費用を用意できるかというのが焦点になると思います。私は当初私立医進学にかなり否定的でしたが(私立は嫌というプライドがあった)、様々な観点から検討した結果私立医御三家も選択肢に入るようになりました。脱サララーメン屋開業などと異なり、医学部進学はリターンがある程度確約されているので、時間と資本の投資対象として優れていると判断し再受験を決意した次第です。

※大学が定員の枠として設定している地域枠だけでなく、各地方自治体による奨学金等を利用するという選択肢もあるようです(私の日医同期の一人はそれを利用して進学している)。ただこれは入試の難易度が下がるというわけではないので注意して下さい。


3. 学士編入か再受験か
 

 私の場合、
①京都大でほとんど単位を取得していなかった(ほぼ留年確定)
②医学部再進学を決意したタイミングが2年終了時だった
③学部入試のような点取りゲームはそこそこ得意(京大理系に合格する程度には)
という状況だったので学士編入ではなく再受験を選択しました(そのため学士編入に関してはほとんどわかりません)。

 どちらを選ぶべきかは各々の状況に依りますが、少なくとも高校卒業時で京大理系学部に合格するレベルの学力があった方ならば苦労せずどこかの医学部には合格できると思います(況や東京大学理系学類)。この層は学力的な心配に関してほとんどしなくていいですし、人によっては1ヶ月もかからず合格できそうです。
 また、周囲の話を聞く限りだと、出身が下位旧帝大早慶理系レベルでも再受験で合格する可能性は大いにあるようにも思います。ただ東大・京大であっても文系学部出身の方はそれなりの努力が必要なように見えます。

 

4. 数ある医学部の中でもどの大学を目指すか

 私は当初旧帝大を志望していました。一年間全力で勉強すれば旧帝大レベルでも狙えると思いましたが、落ちるというリスクを考えると旧制六医科大・私立医御三家に一年ですんなり入るのが一番だと考え、最終的に志望大は金沢大・日本医科大・東京慈恵会医科大に落ち着きました(どの大学も志望順位は同程度)。旧帝医は確かにカッコイイですが、それに拘って何年も浪人するよりもそれなりのところに一年で入るべきだと思います。

 個人的に私が進学先を選択する上で重視したのは以下の点です。

 

①立地
 これは最重要視していた要素です。学部生のうちは様々なものと触れ合える環境のほうが多方面でプラスに働くと考え、地方国公立の中でも医学部キャンパスが市街地に位置する大学を選びました。
 また、京都にずっと留まるよりも他の都市圏に移り、環境を変えることも重要だと考えていました。特に東京は文化資本に恵まれています。東京は大学の数も多く他大との交流がかなりしやすいため、他の都市圏ではなかなかできない経験ができるでしょう。実際、私は東京大学のサークル(地理部・狩人の会)に所属しており、毎回刺激を受けています。

 

②学閥の強さ
 事前リサーチの結果、他学部と異なり医学科では学閥が様々な場面で影響してくることがわかりました。もちろん学閥が全てではなく、学閥が弱い大学出身の医師でも活躍されている方は多くいらっしゃいますが、学閥の影響が全くないとは言えないのが現状のようです。

 

③総合大か単科医科大か
 総合大・単科医科大には以下のようなメリット・デメリットがあると感じています(個人の感想)。

 

総合大:他学部との交流も(多少は)ある。他学部聴講などもできるため医学以外の見聞も広めやすい。サークル活動も多様。
単科医大:医学科内だけでコミュニティが完結する。良くも悪くも高校の延長のような雰囲気。アットホームさでは勝る。

 

 私の場合、すでに京都大学で見聞を広めたりできたので、わざわざもう一度総合大に入りなおす必要もないのではという思いから単科医大も選択肢に入りましたが、高校卒業直後でしたら間違いなく総合大を目指していたと思います。総合大はいいぞ。

 

④進級の厳しさ
 「私立より国公立の方が進級が緩い」というような通説がありますね。概ねこれは正しいものの、大学によっては逆転があるようです。私立の中でも私立医御三家(特に慶應・慈恵)はかなり緩く、国公立でも一部の大学はとても厳しいようです。ここらへんの情報は探せば色々なところにあるのでリサーチ必須です。進級の厳しさは大学生活のQoLに関わってきます。

 

⑤再受験に関して黒い噂がないか
 私立・国公立問わず、再受験生が入試で点数を引かれる事例が大学によってはあるのは確実でしょう。また、残念ながら女性の方は性別によって点数が引かれてしまうような場合が未だにゼロとは言えないのが現状です。
 私立ならともかく国公立は前期後期1校ずつしか受験できないので、このような黒い噂がある大学の受験は避けるようにしました。


※ちなみに私が重視しなかった点その大学で行われている研究内容です。よく研究室で選ぶということをおっしゃる方もいますが、それは基本的に大学院の話です。というのも大学では教授の異動もよくあり、自分が研究を開始する頃もまだその教授が在籍しているかは不確定なので、このことを理由に志望校を選ぶことは避けた方がいいように思います。


5. 受験勉強をどうしたか
 

 私は当初宅浪のつもりでいましたが、一年で合格してほしい(私立でもいいので)という親の意向もあり予備校(河合塾)に通うことになりました。しかし、結果から言うと真面目に勉強した期間ははじめの3~4か月で、残りの期間はほとんどダレていました。

 最初は受験生という懐かしい身分に浸る懐かしさもあり、楽しく勉強を進めていました。しかし高校範囲を一通り終わらせた後は急速に受験勉強がつまらなくなり、ほとんど勉強しなくなりました。受験直前の2,3か月だと集中して勉強していた時間は合計5時間にも満たないと思います(誇張抜き)。
 医学部受験は基本的に易問多答型で運ゲー要素が強く、京大受験と違って勉強しがいが感じられなかった・本当にヤバそうなら一番簡単な国公立にすればいいやと思ってしまったことが主な要因です。医学部受験は京大受験と違ってズルズルと志望校のランクを下げてしまいがちなのが難しいと個人的に感じます。
 一応京大受験時の貯金が潜在意識の底に残っていたので、それと少しの勉強で医学部受験はなんとか乗り切れたという感じです。ちなみに模試の結果は下位旧帝医でB-C判定あたりを推移していました。

 私は以上のように医学部再受験に臨んだので、ゼロから受験勉強に取り組みなおす方には何の参考にもならないと思いますし、勉強方法や使った教材などは全て割愛します。他の方のブログなどを参考にして下さい(それこそ高校生・浪人生向けの情報も含めて)。

 

6. 他学部受験となにが違うか
 

 医学部の受験を何か特別なものと捉えがちな方はたまにいらっしゃいますが、実態は他学部の受験とほとんど変わりません。強いて言えば面接や志望理由書があるかないかぐらいです。
 確かに一部の私立医学部や国公立単科医科大には入試問題が独特な大学があります。しかし、多くの医学部再受験生が目指すであろう地方国公立医学部は全学部共通の問題が大半で他学部の入試対策と全く変わりません。
 つまり医学部だからといって何か特別な入試対策をしなければならないということはほとんどないのです。
 もちろん再受験生・女性は不利か等の情報収集は重要です。志望理由書もしっかり書かないといけません。それでも入試準備のうち、これらの占める割合はごくわずかです。このようなことを無駄に長く考えたり小論文対策をうだうだとするよりも、大人しく筆記試験の勉強をするのがよいでしょう。

 予備校選びにしても、自律的に勉強に取り組める方であれば高額な学費がかかる医学部専門予備校に無理して通う必要はないように思います。つまり、駿台河合塾など大手予備校の医学部コースなどに通うだけで十分ではないでしょうか(学習レベルが医学部受験者層に準じたものであれば医学部コースでなくても可だと思う)。


7. 最後に

  私の医学部再受験の概要は以上です。長々と書きましたが、あくまで一つの事例として読んでもらえれば嬉しいです。

 現在日本医科大に入学してから一か月が経過しました。日医の友人だけではなく東大の友人などもたくさんできて、充実した新生活を送っています。医学部の先輩等から話を聞く限り、自分が想像していた通りの医学部生活が送れそうで安心しているところです。

 苦労して入学した京都大学を中退して医学部に進学するという判断はかなり大きなものでしたが、サンクコストに囚われなかったという意味でもとても良い決断をできたと思っていますし、後悔はありません。そもそも高校生の段階で適切な進路を選ぶことがかなり難しいのは確かですし、転学部や再受験などの選択肢を頭の片隅に置いておくことは学部が合わないと感じたときに有用だと思います。

 この記事が医学部再受験を考えている方・学科が合わずに大学生活が行き詰っている方の助けに少しでもなれば幸いです。